
今日は知床観光。
網走から先のルート選択には悩みました。知床半島を目指すか屈斜路湖を目指すか。どちらも魅力的な観光地ですが、網走から根室方面を一本線で結ぼうとすると、その両方を通るのはなかなか難しい位置関係にあります。そして、もし知床を目指した場合はトレーラーを牽いて知床峠を超えなければいけなくなります。そう、過去に知床峠は自転車で超えたことがあるので、「けっこう大変な峠だぞ」ということは身体でわかっていました。
そんな訳で、知床は網走のキャンプ場をベースにして日帰りで訪問することにしました。「せっかくの知床に1日だけ…」ちょっともったいない気もしましたが、どちらにせよ今回の旅だけで知床の全てを満喫するのは無理な話。今回は知床五湖だけでも歩ければいいかな、ということで話がまとまったのでした。
知床五湖

網走市内の「てんとらんどオートキャンプ場」で迎えた朝です。トレーラーを出てみると辺りは真っ白でした。
聞くところによると、移流霧(いりゅうぎり)と呼ばれるものだとか。北海道の太平洋側からオホーツク海で見られる夏の風物詩なんだそうです。そのメカニズムはというと、太平洋高気圧から来る暖かく湿った空気が、冷たい親潮(寒流)の海面を通過する際に急激に冷やされて海霧が発生し、その霧が風に乗って陸地へと流れ込むことで起こるとのことでした。

さて、今日は長い一日になります。走行距離は200kmを超えるぞ!朝ご飯を食べて7:00にはキャンプ場を出発しました。
早速、真っ平らな一本道。オホーツク海と濤沸湖に挟まれた小清水原生花園を突き抜けます。ここも30年前に自転車で走った道。前のブログに記した「少年」と一緒に走った道です。天気がイマイチなのが残念ですが、そんなことは他所に懐かしさと再びここを訪れることができた喜びで心を踊らせながら車を走らせました。

斜里の町を抜け、知床半島に突入。オホーツク海と断崖に挟まれた道をクネクネと進みます。
天気はどうなるのかなぁ?それだけがちょっと心配…。

網走から順調に走り続けましたが、それでも2時間弱かかりました。
そして、無事に「知床五湖フィールドハウス」に到着です。

ここは、「知床五湖」散策の出発点。
まずは情報収集です。

知床五湖にはその名の通り5つの湖が点在しており、それらは1湖、2湖、3湖、4湖、5湖と名付けられています。
知床五湖の散策には、地上遊歩道を歩く「大ループ」と「小ループ」、そして高架木道の3つの選択肢があります。5つの湖をグルっと回ってくる「大ループ」だと一周3km、1湖と2湖だけを回ってくる「小ループ」だと一周1.6km。1湖だけを往復してくる「高架木道」だと往復で1.6kmとなっているようです。

そして、 地上を歩く「大ループ」「小ループ」のコースには、ヒグマ活動期(例年5月10日~7月31日)の期間はガイドツアーへの参加が必須です。そして、それ以外の期間(開園~5月9日、8月1日~閉園)は個人での散策が可能なものの、散策前に簡単なレクチャー(受講料:大人250円、子ども100円)を受ける必要があります。ちなみに、今日は8月3日。つまり、ちょうど個人散策が可能になったばかりのタイミングでした。レクチャーの受講は予約制になっているものの、確認してみると当日申し込みでもまだ空きがあるみたい。そして、料金もそれほど高額ではありません。
それに対して、「高架木道」は、センターハウスから一湖まで、地上2〜5mの高さに敷かれた木道で、柵の外側には8000Vの電流が流れておりヒグマが入れないように設計されています。よって、レクチャーなしでいつでも歩けます。

そんな訳で、「せっかくだから個人で歩けるようになったばかりの地上道を歩いてみる」か、「ヒグマ対策が万全な高架木道を歩く」か、悩ましいところでした。
結論としては、「高架木道」を歩くことにしました。「子どもを道連れにリスクを犯す必要はないだろう」というのが一番の理由でしたが、背が低い子どもにとっては高架木道の方が景色を楽しめるかな、とか、距離が長いと疲れた思い出ばかりになってしまうかな、というのも理由です。
知床の魅力は図りしれず、今日一日で満喫することは到底できません。なので、この先もここを訪れる機会はたくさんあるでしょう。ということで、今日は「入門編」を楽しむことにしました。

こちらが高架木道の入口。立派な木道です。こんな道が800mも続いているなんてすごい!
DIY好きの私、先日まで自宅の庭にちょっとしたウッドデッキを作っていました。その際、「たったこれっぽっちのウッドデッキを作るのに、木材代がこんなにかかるんかい!」と驚いたばかりだったので、「この高架木道を作るのにどれだけの木材を使ったんだろう?いくらかかったんだろう?」なんてことを考えてしまいました。
そう考えてみると、こんなに立派な遊歩道を無料で楽しませていただけるなんて、めちゃくちゃありがたい話です。

歩き始めると、すぐに視界が開けました。

目線の高さを雲が流れています。
知床の山々を望めないのは残念ですが、これはこれで神秘的な世界です。

距離は短いので急いだらもったいない。
度々立ち止まりながら、知床の風景を楽しみました。

解説によると、オホーツク海に面するウトロ側と根室海峡に面する羅臼側では、気候も降水量も、そして植物の開花時期や種類も異なるそうです。
知床の美しい自然風景は偶然の重なりで築き上げられているということですね。

おや、霧が濃くなってしまった…。
そんな中、足元のヤブからガサガサと物音が。
熊!?

鹿でした。
なぜにこんなに深いの笹の森に入ってきてしまったの?8000Vの電圧線があるから気をつけてねぇ〜!

そして、1湖に到着です。

30年ぶりの訪問であるけれど、その時の記憶はほとんどありません。おそらく自転車の旅があまりにも過酷刺激的だったので、そちらの記憶にかき消されてしまっているんだと思います。そして何より、当時はこの高架木道なんかなかったですからね。
調べてみたら、この木道の完成は2010年とのことなので、私が訪れた14年後ということになります。そう考えると、30年という月日は長いですねぇ〜。

そんな中、「30年ぶりの場所に自分の子どもを連れてくることができた」ということは事実であり、やっぱり感動を覚えたパパなのでした。
来てよかったな。

知床五湖からの帰り道、記憶のある建物の前を通りました。岩尾別YH(ユースホステル)です。
YH最盛期には「日本三バカYH」と言われていたYHです。私も北海道を自転車で旅していた時に何度も電話をしたのですが「満員」で予約を取ることができませんでした。そんなYHが2020年に閉館になったというニュースを聞いてとても残念に思ったことを覚えています。
不思議だな…って思います。
当時、私はキャンプを中心に自転車で旅をしながらも、人恋しくなるとYHに泊まっていました。そこに行けば必ず同じように旅をしている人がいて、話ができるからです。そして、そうやって出会った人とはアドレス(住所)交換をして、旅を終えてからも頻繁に手紙のやり取りをしていました。北海道を1ヶ月も旅をした後の数カ月間は「手紙が届かない日はない」というくらい、たくさんの人と手紙のやり取りをしていたものです。
そして、現代の人たちも「人を求めている」というところは同じだと思います。SNSが繁栄していることはその証でしょう。しかし…YHに泊まって旅をするような人はいなくなってしまった。今の若者(というか、40代以下)でYHの存在を知っている人は皆無に近いような気がします。いつの間にか、「旅=人との出会い」という方程式は消えてしまったのですね…。
知床自然センター

知床自然センターにやって来ました。
ここで、知床の自然についてちょこっとお勉強です。

知床と聞いてイメージするものはたくさんありますが、やっぱり外せないのは「ヒグマ」でしょうか。
ここでは、ヒグマについて色々と紹介がされていました。

熊の洞穴。
解説を読んでみると初めて知ることがたくさんありました。
①中型以上の哺乳類で冬眠をするのは熊の仲間だけ。
②冬眠中の体温は4〜6℃下がるだけ(シマリスなどは外気温近くまで下がるらしい)。
③他の冬眠動物のように途中で起きて餌を食べたり糞尿をすることはない。
④妊娠をしているメス熊は冬眠中に出産と育児をする(他にそんな動物はいない)。
などなど。

熊を捕獲するための罠。「人間も入れます」とのこと。
それにしても、この頑丈さは熊が持つパワーがどれ程かを表現している感じですね。

フードロッカー。私もアラスカを自転車で旅をしてた時はキャンプ場でお世話になりました。
ちなみに、アラスカを自転車で旅する際、「一度でも炊事をしたテントは使ってはいけない」と言われました。匂いが付いてしまうからです。そして、「テント」と「炊事場所」と「食料保管場所」は三角の形で100mずつ離す、という鉄則も教わりました。
アラスカでは町と町の間が数百キロも離れているので、自転車で旅をしていると次の町にたどり着くまで何日もかかります。なので、その間はホテルはもちろんキャンプ場だってありません。そのため、野宿を繰り返しながら前へ進むことになります。熊がいる世界での野宿は想像を絶する緊張感を生むものでした。夜中に小さな風音一つでもあれば目を覚まします。といっても、目を開けたって真っ暗で何も見えない(目の前に持ってきた自分の手の平さえ見えない)ので、自分の周りに置いてあるものを触って「確かにこの辺にこんなものを置いたな」とか、自分の顔をつねってみて「痛いな」なんてことを確認し、そしてやっと「自分が生きてること」を確認する毎日でした。そして、朝、出発の準備を終えて走り出した瞬間から、「今日はどんなところで寝るのかな…」なんて心配をしながら自転車を漕いでいたのでした。
なんで、そこまでして自転車で旅なんかしていたんでしょうね?(笑)

知床の自然に関する書籍も並べられていて、子ども達は案の定、吸い寄せられていました。

そんな中、こんなものに挑戦してみました。
知床の絵柄が入った布バックを購入すると、クレヨンを貸してくれます。これはアイロンをかけると固まるクレヨンで、洗っても色が落ちなくなるんだとか。布バックなら使う機会はいくらでもあるし、旅先で作ったとなれば思い出いもなるでしょう。
ということで、子ども達は制作活動開始、パパは自由時間。となり、この後もゆっくりと展示を見てまわりました。

ここで初めて知り、とても驚いたことがありました。
上下に並んだ2枚の写真は岩尾別地区の航空写真です。右端に写っている黒い点が知床五湖。上の写真は1974年、下の写真が現在です。最も明確な違いは、「白い部分」の面積の差です。この「白い部分」はかつての放牧地だそうな。つまり、今では熊の天下となっている深い森に囲まれたあの地域が、一時期は広大な牧場だったというのです。
そして、その歴史を辿ると、明治時代以降の「開拓」にルーツがあるそうです。そう、蝦夷地を開拓した先人たちは、知床半島のこんな森の奥深くにまで入ってきていたんですね。重機もない時代に、どれほど大変な苦労を重ねていたのだろう。
時が経ち、人が去ることで、自然は本来の姿に戻っていく。この2枚の写真は、まさにその様子を記録していました。人間が持つ力、自然が持つ力、どちらも計り知れないものです。この偶然にも見える時の流れと、それぞれの力が織りなすつながりが、今ある知床の姿を作り上げているのですね。

こちらのモニターでは、「カムイワッカの滝」が紹介されていました。実は知床のどこを訪れようかと考えた時、一番最初に思いついたのがカムイワッカの滝でした。川をよじ登り、滝壺の温泉に入れるなんて聞いたら、子どもたちは大喜びすること間違いなしです。
ところが、調べてみてビックリ。昔とは違い、現在は「予約制」になっているとのことでした。しかも、小学生以下は登ることができないそうです。そうなると、残念ながら長男は一緒に登れません。そのため、今回は訪問を断念したのでした。
30年前に来た時は、川の側まで自転車で行き、そのまま靴下で登っていたんですけどねぇ…。といっても、舗装もされていない悪路で、普通に考えれば自転車で行くようなところではない、ということは今でも鮮明に覚えています。



さて、出来上がりました!かなり時間をかけて丁寧に描いていました。
ちなみに、アイロンは自宅に戻ってから自分でかけるらしい…。ということで、色が移らないように慎重に持ち帰らなきゃ、です。
知床峠

知床自然センターを出発。
知床峠に寄ってみることにしました。自転車で越えた時は本当にハードだったけれど、車ならなんてことはありません。霧がこんな感じなので景色は期待できなそうですが、やっぱり再びあの地を訪れてみたいです。
パパはここに自転車で来たことがあるんだよ!
と子ども達に自慢をしたいというのが、一番の理由だったんですけどねぇ〜。(笑)

あっけなく、到着。
さて、パパは遠い記憶を思い起こしながら、思い出の地を探し始めました。自転車と一緒に写真を撮った場所はどこだろう?

ここか?
いや違う気がするなぁ〜。
あっ、雲が流れた。羅臼岳がちらっと姿を現しました。

一瞬で真っ白な世界に戻っちゃいましたけどねぇ〜。
さて、パパの思い出の地は多分、ここ。なんか、今ひとつ違う気がするんだけど、多分ここです。
さて、そのハッキリとしなかった原因は、家に帰ってからアルバムをめくってわかりました。

モニュメントが作り変えられていたんですね。30年前の写真を見ると木製なので、知床の厳しい自然環境の中で朽ちてしまったのでしょう。今は立派な石で造られたものに変えられていました。
いやぁ〜、懐かしいな。本当に大変だったんですよ。ここまで登ってくるの。

いや〜、満足です。
30年ぶりに思い出の地を再び訪れることができました。そして、子ども達にパパの栄光を自慢することもできました。(子ども達はなんとも思ってないでしょうけど…)。

知床を訪れ熊の存在を意識してみると、星野道夫さんの言葉を思い出します。
星野道夫さんは、「熊という存在は、私たちが自然の中で生きる上で必要な、生と死の緊張感を呼び起こしてくれるものだ」と書いていました。「人間が忘れがちな、生きるための根源的な緊張感を与えてくれる存在」「熊がいる世界は、人間と自然が対等で、緊張感のある関係性で繋がっていることを示している」というのです。
私が自転車でアラスカを旅した理由はそこにあったのかな、と思いました。"現代を生きる人間が失いかけているもの”を自分なりに探しに行っていたのかもしれません。
そんなこんなで、パパとしてはこれまでの自分の足跡を振り返る時間となった知床訪問でした。
(つづく)
備忘録
8月3日(日)
てんとランド7:05→8:55知床五湖フィールドハウス10:10→10:25知床自然センター11:45→12:00知床峠→オシンコシンの滝13:00→13:15天に続く展望台13:30→14:15さくらの滝14:45→15:30網走市内(買い出し・給油)16:25→16:40てんとランド
この日の走行距離:牽引あり0km+牽引なし249km=249km
この旅での走行距離」:牽引あり1622km+牽引なし437km=2059km
